結論:コード規約(コーディングスタイルガイド)は、
「動くコード」を「読みやすく・直せるコード」に変えるための共同作業のルールです。
Pythonでは PEP 8 が事実上の標準で、その背景に Zen of Python(PEP 20) という価値観があります。
この記事でわかること
- コード規約の定義と役割(PEP 8 と Zen の位置づけ)
- なぜ「動けばOK」では足りないのか(チーム/将来の自分のため)
- メリットだけでなくデメリット/注意点 も具体的に
- まず今日からできる導入ステップとミニ演習
コード規約とは?
コード規約(Coding Style Guide)は、書き方の統一ルールです。
例えば、インデント幅、命名のやり方、空白の入れ方、コメントの書き方、インポートの順序など。
- Pythonの代表例:PEP 8(Python Enhancement Proposal 8)
- 価値観の源泉:Zen of Python(PEP 20) =「明示は暗黙に勝る」「美は醜に勝る」…などの格言
Zen = 心構え / 美意識、PEP 8 = 実践ルール
→ セットで学ぶと「なぜそう書くのか」が腑に落ちます。
「動けばOK」では足りない理由
コードは 書かれる回数より“読まれる”回数が圧倒的に多い です。
将来の自分やチームメイトは、まずコードを読むところから始めます。
規約があると:
- 同じチームのコードが同じ見た目になり、文脈を理解しやすい
- 変更点が差分として綺麗に見え、レビューが速い
- 「どう書く?」の不要な口論が消え、ロジックや設計に集中できる
メリット(導入する価値)
- ✅ 可読性:初見でも意図が追いやすい(命名/レイアウトが一貫)
- ✅ 保守性:時間が経っても直しやすい(将来の自分を救う)
- ✅ 生産性:レビュー/議論のコストが減り、実装に集中できる
- ✅ 品質:バグの温床になりがちな“読みづらさ”を抑制
- ✅ 学習容易性:新人がチームの「書き方」をすぐ学べる
- ✅ 自動化:整形/静的解析ツールと組み合わせて機械に任せられる
デメリット/注意点(落とし穴も知っておく)
- ⚠️ 初期コスト:学習とルール合意に時間がかかる
- ⚠️ 硬直化のリスク:規約を目的化すると、状況に応じた柔軟さを失う
- ⚠️ 創造性の抑制?:慣れないうちは“縛られる感”がある(ただし多くは慣れで解消)
- ⚠️ ツール衝突:
black
とflake8
の設定が噛み合わないなど、設定の整合が必要 - ⚠️ レガシー対応:既存大規模コードを一気に直すと差分が大きくなりやすい
→ 新規/変更範囲から段階導入が無難
指針:規約は「人を縛る」ためでなく、チームの思考資源を節約するための道具。
例外が必要な場面(性能/可読性/外部仕様の都合)では、理由をコメントして適切に逸脱するのもスキルです。
具体例:PEP 8 に沿うと何が変わる?
悪い例
def getuserinfo(ID,flg=False):
if(flg==True):print("DBG");return {"Nm":"Taro","Age":20}
else:return{"Nm":"Taro","Age":20}
良い例(PEP 8 寄り)
def get_user_info(user_id: int, debug: bool = False) -> dict:
if debug:
print("DBG")
return {"name": "Taro", "age": 20}
改善ポイント
snake_case
の命名(関数/変数)- 空白・改行で論理ブロックを整理
if (flg==True)
→if debug:
の明示性- 戻り値のキー名を意味のある英語へ
- 型ヒントで関数契約を明示
いつ“あえて”外してよい?
- パフォーマンス最適化で一時的に冗長さを許容するとき
- ドメイン慣習 / 既存API に合わせる必要があるとき
- 自動生成コード(機械が吐くコード)に手を入れない方が安全なとき
原則:逸脱の理由をコメントで明記し、チーム合意を取る。
可能なら「包む/分ける/コメントで補う」などで読みやすさを補強する。
導入ステップ(今日からできる)
- 宣言:チーム(または自分)で「PEP 8をベース」にすると決める
- 自動化:フォーマッタ
black
、インポート整列isort
を導入 - 静的チェック:
flake8
(またはruff
)で守れない箇所を検出 - 設定共有:
pyproject.toml
にツール設定をリポジトリで共有 - 小さく導入:新規/変更ファイルから適用、段階的に広げる
- レビュー運用:PRテンプレに「スタイルパス済」をチェック項目として追加
例:
pyproject.toml
(抜粋)
[tool.black]
line-length = 88
target-version = ["py310"]
[tool.isort]
profile = "black"
[tool.flake8]
max-line-length = 88
extend-ignore = ["E203", "W503"]
ミニ演習(5分)
- 下のコードを PEP 8 に沿って整形 してみよう。
class person:
def __init__(self,Name,AGE): self.Name=Name; self.AGE=AGE
def __repr__(self): return f"{self.Name}({self.AGE})"
- できたら
black
を当てて結果を見比べ、差分から学びをメモする。
よくある質問(FAQ)
Q. 個人開発でも必要?
A. はい。未来の自分は「別人」。読みやすさは将来の時間を節約します。
Q. ルールが多すぎて覚えられない…
A. ツールに任せるのがコツ。black
が整形、flake8
が気づきをくれます。
Q. ルールが先か、読みやすさが先か?
A. 読みやすさが先。PEP 8も「一貫性」と「可読性」を最重視しています。
まとめ
- コード規約は共同作業の言語。Pythonでは Zen(価値観)→ PEP 8(実践) の順に学ぶと腹落ちします。
- メリットは多い一方、硬直化や初期コストには要注意。
- ツール+段階導入+合意形成で、無理なく習慣化しましょう。