1-1. コード規約とは何か?— なぜ必要で、どんな効用と落とし穴があるのか

テクニック

結論:コード規約(コーディングスタイルガイド)は、
「動くコード」を「読みやすく・直せるコード」に変えるための共同作業のルールです。
Pythonでは PEP 8 が事実上の標準で、その背景に Zen of Python(PEP 20) という価値観があります。


この記事でわかること

  • コード規約の定義と役割(PEP 8 と Zen の位置づけ)
  • なぜ「動けばOK」では足りないのか(チーム/将来の自分のため)
  • メリットだけでなくデメリット/注意点 も具体的に
  • まず今日からできる導入ステップとミニ演習

コード規約とは?

コード規約(Coding Style Guide)は、書き方の統一ルールです。
例えば、インデント幅、命名のやり方、空白の入れ方、コメントの書き方、インポートの順序など。

  • Pythonの代表例:PEP 8(Python Enhancement Proposal 8)
  • 価値観の源泉:Zen of Python(PEP 20) =「明示は暗黙に勝る」「美は醜に勝る」…などの格言

Zen = 心構え / 美意識、PEP 8 = 実践ルール
→ セットで学ぶと「なぜそう書くのか」が腑に落ちます。


「動けばOK」では足りない理由

コードは 書かれる回数より“読まれる”回数が圧倒的に多い です。
将来の自分やチームメイトは、まずコードを読むところから始めます。

規約があると:

  • 同じチームのコードが同じ見た目になり、文脈を理解しやすい
  • 変更点が差分として綺麗に見え、レビューが速い
  • 「どう書く?」の不要な口論が消え、ロジックや設計に集中できる

メリット(導入する価値)

  • 可読性:初見でも意図が追いやすい(命名/レイアウトが一貫)
  • 保守性:時間が経っても直しやすい(将来の自分を救う)
  • 生産性:レビュー/議論のコストが減り、実装に集中できる
  • 品質:バグの温床になりがちな“読みづらさ”を抑制
  • 学習容易性:新人がチームの「書き方」をすぐ学べる
  • 自動化:整形/静的解析ツールと組み合わせて機械に任せられる

デメリット/注意点(落とし穴も知っておく)

  • ⚠️ 初期コスト:学習とルール合意に時間がかかる
  • ⚠️ 硬直化のリスク:規約を目的化すると、状況に応じた柔軟さを失う
  • ⚠️ 創造性の抑制?:慣れないうちは“縛られる感”がある(ただし多くは慣れで解消)
  • ⚠️ ツール衝突blackflake8 の設定が噛み合わないなど、設定の整合が必要
  • ⚠️ レガシー対応:既存大規模コードを一気に直すと差分が大きくなりやすい
    新規/変更範囲から段階導入が無難

指針:規約は「人を縛る」ためでなく、チームの思考資源を節約するための道具
例外が必要な場面(性能/可読性/外部仕様の都合)では、理由をコメントして適切に逸脱するのもスキルです。


具体例:PEP 8 に沿うと何が変わる?

悪い例

def getuserinfo(ID,flg=False):
if(flg==True):print("DBG");return {"Nm":"Taro","Age":20}
else:return{"Nm":"Taro","Age":20}

良い例(PEP 8 寄り)

def get_user_info(user_id: int, debug: bool = False) -> dict:
    if debug:
        print("DBG")
    return {"name": "Taro", "age": 20}

改善ポイント

  • snake_case の命名(関数/変数)
  • 空白・改行で論理ブロックを整理
  • if (flg==True)if debug:明示性
  • 戻り値のキー名を意味のある英語へ
  • 型ヒントで関数契約を明示

いつ“あえて”外してよい?

  • パフォーマンス最適化で一時的に冗長さを許容するとき
  • ドメイン慣習 / 既存API に合わせる必要があるとき
  • 自動生成コード(機械が吐くコード)に手を入れない方が安全なとき

原則:逸脱の理由をコメントで明記し、チーム合意を取る。
可能なら「包む/分ける/コメントで補う」などで読みやすさを補強する。


導入ステップ(今日からできる)

  1. 宣言:チーム(または自分)で「PEP 8をベース」にすると決める
  2. 自動化:フォーマッタ black、インポート整列 isort を導入
  3. 静的チェックflake8(または ruff)で守れない箇所を検出
  4. 設定共有pyproject.toml にツール設定をリポジトリで共有
  5. 小さく導入:新規/変更ファイルから適用、段階的に広げる
  6. レビュー運用:PRテンプレに「スタイルパス済」をチェック項目として追加

例:pyproject.toml(抜粋)

[tool.black]
line-length = 88
target-version = ["py310"]

[tool.isort]
profile = "black"

[tool.flake8]
max-line-length = 88
extend-ignore = ["E203", "W503"]

ミニ演習(5分)

  1. 下のコードを PEP 8 に沿って整形 してみよう。
class person: 
  def __init__(self,Name,AGE): self.Name=Name; self.AGE=AGE
  def __repr__(self): return f"{self.Name}({self.AGE})"
  1. できたら black を当てて結果を見比べ、差分から学びをメモする。

よくある質問(FAQ)

Q. 個人開発でも必要?
A. はい。未来の自分は「別人」。読みやすさは将来の時間を節約します。

Q. ルールが多すぎて覚えられない…
A. ツールに任せるのがコツ。black が整形、flake8 が気づきをくれます。

Q. ルールが先か、読みやすさが先か?
A. 読みやすさが先。PEP 8も「一貫性」と「可読性」を最重視しています。


まとめ

  • コード規約は共同作業の言語。Pythonでは Zen(価値観)→ PEP 8(実践) の順に学ぶと腹落ちします。
  • メリットは多い一方、硬直化や初期コストには要注意。
  • ツール+段階導入+合意形成で、無理なく習慣化しましょう。

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